学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)[学術的]

均一系遷移金属触媒を用いる不飽和炭化水素の高効率変換反応の開発

 

辻 康之 殿(京都大学大学院工学研究科 教授)

 辻氏は,石油化学工業の基幹原料・製品であるアルケン,ジエン,アルキンなどの不飽和炭化水素類を高付加価値化する新規官能基化反応の開発において,当該分野の進展を先導する数多くの優れた成果を挙げた。様々な均一系触媒存在下,安価な工業原料である酸無水物,ホルムアミド,二酸化炭素などの官能基源を不飽和炭化水素類に選択的に導入する新しい触媒反応の開発に成功した。以下に同氏の研究成果をまとめる。
 プロピレンのヒドロホルミル化に代表されるように,カルボニル化反応は有機工業化学において重要な反応である。また,原子効率も高い理想的な反応の一つである。しかし,一酸化炭素は有毒な気体であり,取り扱いに注意を要する。辻氏は,酸塩化物,アルデヒド,ホルムアミドなど取り扱いが容易で安価な汎用有機カルボニル化合物をカルボニル源とする,アルケン,ジエン,アルキンの効率的な新規カルボニル化に成功している。これは,同氏が新規に開発したかさ高い配位子が,副反応である脱カルボニル化を阻害しているためである。
 均一系触媒反応において,単一の触媒活性種だけを発生させることは,触媒の高い活性,反応の選択性を発現させるためにも重要である。辻氏は,ナノサイズの新規デンドリマー型配位子を設計することにより,金属上に配位する配位子の数が制御された単一金属触媒の創成を達成した。この触媒を利用することにより,空気を唯一の酸化剤とするアルコールの酸化,不飽和炭化水素類の分子内閉環メタセシス,不飽和炭化水素類の位置選択的ヒドロシリル化など,従来の触媒では達成できなかった新しい触媒反応の開発に成功している。
 辻氏は,地球温暖化・環境問題と関連する二酸化炭素の炭素資源化についても優れた成果を挙げている。高活性な均一系遷移金属触媒を用い,1気圧の二酸化炭素をアルケン,ジエン,アルキン,芳香族化合物などに固定化し,高度に官能基化された付加価値の高い有機化合物群に変換する反応系の開発に成功している。さらに,二酸化炭素の固定化には,従来,発火性試剤等の強力な還元剤の使用が必要であったが,同氏は,ヒドロシラン,マンガン金属粉など安価で安全な還元剤が利用可能な反応を開発した。
 以上のように,辻氏は,独創的な観点により,石油化学工業の基幹製品である不飽和炭化水素類を付加価値の高い有機化学製品に高効率で変換する画期的な触媒反応を数多く開発した。これらの研究により,石油化学の分野の学術的発展に大きく貢献した。よって,同氏の業績は本会表彰規程第3条1項に該当するものと認められる。

 

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