論文賞

H-YおよびH-ベータ型ゼオライトによる水素非共存下でのt -ブタンチオールの硫化水素への分解

 

向山 昂 殿*1,戸谷 光男 殿*2,早野 慎太郎 殿,浦崎 浩平 殿*3, 霜田 直宏 殿,里川 重夫 殿
(成蹊大学理工学部)
(上記所属は論文発表時のものです)

 燃料電池は高効率でかつ排熱を有効に利用することができる環境にやさしいクリーンなシステムであり,地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出を低減しうる機器として注目されている。燃料電池の燃料となる水素の製造手法としては,天然ガスと水蒸気に熱を加えて水素を作る水蒸気改質法が代表的である。天然ガスは無色無臭であることから,都市ガスにおいては安全面を考慮しガス漏れ検知のために硫黄化合物が付臭剤として添加されている。しかしながら,硫黄化合物は水蒸気改質反応に対し触媒毒として作用するため,これを除去する必要がある。天然ガス中の硫黄化合物を除去する方法として水添脱硫プロセスがあるが,高温かつ高水素圧下で稼働することから,家庭用燃料電池システムへの適用は現実的ではない。
 これらの課題を解決するために,著者らは触媒にゼオライトを用いた低温(40〜150 ℃)でかつ水素非共存下で硫黄化合物を分解する新しい脱硫プロセスを提案した。新規プロセスの検討には付臭剤として一般的であるものの,過去にほとんど研究対象となっていないt -ブタンチオール(以下,TBT)を選択し,ゼオライトの構造が脱硫反応に与える影響を評価した。その結果,細孔径が大きく,プロトン交換率が高いH-Y型およびH-ベータ型を触媒として適用することにより,低温かつ水素非共存下でTBTが硫化水素に転化することを実証した。また,H-Y型ゼオライトにTBTが吸着する前後のFT-IRスペクトルの詳細な解析等から,分解反応にはルイス酸ではなくブレンステッド酸が寄与することを示した。さらに,H-ベータ型ゼオライトのSi/Al比が活性劣化に与える影響を詳細に評価し,活性劣化はTBT分解反応で生成したイソブテンの重合により起こる炭素析出が原因であり,炭素析出量はゼオライトの酸量に相関することも見出した。TBTの分解反応および触媒劣化メカニズムに関する重要な知見を示し,提案した新規脱硫プロセスの実用化に向けた今後の指針および課題を明確にした。
 以上のように本論文は,低温かつ水素非共存下での硫黄化合物の分解反応プロセスの実用化の可能性を示唆したものであり,天然ガスを利用した家庭用燃料電池システムの進展に資する顕著な成果であるものと考えられる。よって,本論文は本会表彰規程第6条に該当するものと認められる。
[対象論文] J. Jpn. Petrol. Inst., 58, (3), 176(2015).
[現所属] *1 ダイハツ工業(株),*2 太陽工業(株),*3 千代田化工建設(株)

 

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