技術進歩賞

超臨界水を用いた坑井元における非在来型超重質原油改質技術の開発

 

日揮株式会社 殿,独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 殿

 カナダや南米などに賦存する非在来型超重質原油は,在来油を超える規模の可採埋蔵量が確認されているが,粘性が高くそのままではパイプライン輸送が困難であることが大きな技術課題となっている。 日揮と石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が共同開発した超臨界水を用いた坑井元での超重質原油改質技術(SCWC:Supercritical Water Cracking Technology)は,水のみを使用し超重質原油をパイプライン輸送が可能な改質油に分解でき,超重質原油の開発を促進すると期待される。日本にとっては新規の権益の獲得,産油国にとっては新たな油田の開発による経済発展への寄与が期待される。
 SCWCは,水素や触媒を用いることなく,水だけを使った簡便な熱分解法で超重質油を改質する技術である。これまで国内外の複数の研究機関・企業で類似技術の研究開発が行われてきたが,大部分は実験室レベルの試験に留まっている。一方,日揮とJOGMECが開発したSCWCは2016年にカナダで5 BPDのパイロット装置による250時間の連続運転を達成し,信頼性が確認された。現在,カナダ,南米,アフリカなどで商業装置の建設に向けて,事業者側と協議が進められている。
 日揮とJOGMECが開発したSCWCの特徴は,(1)超臨界水中で超重質原油を熱分解した後,超臨界水に可溶な軽質油を速やかに抽出することにより,過分解によるガス生成や重合反応によるコークスの副生を抑制できる,(2)反応器内の超臨界水相とピッチ相の界面レベルを制御することにより,反応器内の滞留時間を適切に制御し,高い分解率とコーキングの抑制の両立を実現できる,(3)改質油のAPIは24°で十分にパイプライン輸送が可能であると同時に,副生するピッチも液体として取り扱うことが可能である,(4)従来の熱分解プロセスと比較して,プロセスを構成する機器数が少なく,また高圧水素発生設備や固体ハンドリング設備が不要であるため,低コストで操作が簡便なプロセスを実現できる,(5)改質油の貯蔵安定性,輸送安定性は良好であり,ファウリングを発生することなく製油所での改質油の精製が可能である,(6)プラントの設置面積が小さい,エネルギー消費量が少ない,取り扱いの難しいコークスを生成しない等,環境負荷が少ないプロセスである,(7)流通式反応器による連続運転が可能であり,運転の煩雑さが少ないといった点である。これらの優位性により,本技術は原油を生産する坑井元での超重質原油の改質プロセスに適した技術と言える。
 日揮およびJOGMECは,本研究成果に関して国内外で多数の発表を行っている。また,特許を超重質油の生産国に出願しており,既に複数の特許が登録されている。
 以上により,本件は本会表彰規程第9条に該当するものと認められる。

 

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